トップ > 特集 > 初めてのウェブ外注 1. 企業はウェブで何が出来るか?


権 成俊
日本でインターネットが普及し始めて約10年。最近ではほとんどの企業が自社のウェブサイトを所有しています。以前は企業のウェブサイトと言えば会社案内サイトを指すことが多かったものですが、現在その活用方法は様々です。見込み客に向けて情報を発信している企業や、EC(Electronic Commerce:電子商取引)で決済まで行って直接売り上げにつなげている企業もあります。
その中でも近年は、ウェブサイトを顧客向け以上に見込み客の獲得、つまり集客のために活用する例が増えています。インターネットの利用者は国内ですでに8000万人を超えると言われており、多くの見込み客との接点を安価に獲得できることがインターネットの特徴の一つだからです。そのために重要視されているのがSEO、リスティング広告などのアクセス対策手法です。これらの集客方法はウェブならではのもので、既存の広告の考え方とは大きく異なる側面もあり、これを代行する専門会社も増えています。
さらに、昨年から今年にかけて、国内ではアクセスログ解析ツールの普及が進んでいます。Googleが無償提供するGoogle Analyticsという高度な解析機能を持ったツールがより進化を遂げ、利用しやすくなったことや、米国で高いシェアを持つオムニチュア社が同社のアクセスログ解析ツールSite Catalystの普及に本格的に取り組み始めたこともその一因でしょう。専門雑誌やウェブサイトではアクセスログ解析のニュースが盛んに取り上げられています。
ネットの活用で日本より先を行く米国では、アクセスログ解析が経営指標の一つとして活用され、そのための専門コンサルティング会社も増えています。日本国内でも近いうちにアクセスログ解析を中心としたウェブコンサルティング会社が増えてくるでしょう。このように、日本国内でも深く、確実にインターネットの活用は進んでいるのです。
ウェブサイトを会社案内としてだけ活用していたころは、取引先や顧客向けの会社概要の発信が目的でしたから、とにかくウェブサイトを作成し、名刺や会社案内などの印刷物にURLを刷り込むことで、サイトに興味を持った方がURLを直接ブラウザに打ち込んだり、また検索エンジンから会社名で検索してサイトを閲覧してもらうという方法で閲覧を促しました。
しかし、直接会社を認知している方だけでなく、見込み客に向けての情報提供まで考えると、誰に見てもらうのか、またどうやってそれらの人々にサイトを訪問してもらうのかによって作るべきウェブサイトの姿も大きく異なります。サイトのターゲットユーザーが“サイトを見たい人”から“サイトを見せたい人”に変わってきたのです。
ウェブサイトのターゲットは見たい人から見せたい人へ
そのため、SEO,SEMのようなネット上のアクセス対策や、クロスメディアを活用したサイトへの誘導が必要となり、これらの手法とウェブサイトの制作を合わせて検討する必要が出てきました。そこで、ウェブ制作会社以外にもSEO,SEMの支援をする会社や、ウェブの戦略立案を支援するウェブコンサルティング会社が活躍することとなったわけです。
こんな話をすると、「当社はネット専門の企業では無いからそこまでやる必要は無い」と思う方もおられるでしょう。しかし、ここまでウェブ活用への取り組みが高度化してきたのは、一部のネットリテラシーの高い企業のニーズによるものだけではありません。幅広い業種、規模にわたる多くの企業がインターネット、ウェブサイトを活用しているのです。
ウェブサイトを活用すれば、オフラインのマーケティングと比較してローコストで多くの見込み客を獲得出来たり、サポート費用を削減したり、インターネットが無い時代には不可能であった企業経営の合理化、効率化が実現できるなど、それだけの価値があるということです。ECのように直接売り上げとしての貢献度が測定できる場合以外でも、企業経営のいろいろな側面で深く、静かに効果を発揮しているのです。
ウェブサイト活用方法の高度化に伴い、ウェブサイト制作の手順も変わってきました。単純に会社案内サイトを作成して関係者や取引先に見てもらうだけであれば、その内容やデザインを検討すれば良かったのですが、今日ではデザインや内容の話は後の話で、まずは広く自社のインターネットの活用のイメージ、ウェブサイトを使って何をやるのかを企画します。その後、ウェブコンサルティング会社やアクセス対策専門会社と一緒に戦略やアクセス対策を検討し、大枠が決まったら制作会社にサイト設計、デザイン制作を依頼します(これらをすべて制作会社で請け負う場合もあります)。
ウェブサイト制作と活用の流れ
そのための第一歩は情報収集です。特に多くの事例を見ることが重要ですが、幸いウェブサイトの事例はネット上でいくらでも見ることができます。競合サイトや有名サイトをユーザー視点で閲覧することで、その目的と価値、効果の程度がイメージできるでしょう。その上で商工会が主催するネット活用のセミナーや、ウェブマーケティング会社のセミナーなどに参加し、いろいろな視点からのウェブ活用方法を学びましょう。その上で、自社のウェブサイトのイメージを膨らませてみましょう。
サイトの活用方法を考えるときに知っておかなくてはならないインターネットの戦略として、差別的優位点の明確化とポジショニングがあります。
インターネットは多くの見込み客と多くの競合がひしめき合う競争環境です。ブルーオーシャン戦略として知られるように、競争の激しい環境を避けて、競争が無い、もしくは自社にとって有利な枠組みで戦う必要があります。これがウェブサイト活用の基本的な戦略です。
たとえば、リアルビジネスでは商圏が限られているので実質的な競合が少なく、優位性が低くても生き残っている企業、もしくは営業力で競争優位に立っている企業などがありますが、ネットにはこれらの優位性を直接持ち込むことはできませんから、リアルビジネスのコンテンツをそのままウェブサイトに掲載しても勝算はありません。今までの成功体験を捨てて「ネットではどうやったら勝てるのか?」を考えなくてはならないのです。
また、インターネットビジネスはその成否が可視化しにくいのも特徴で、その結果マーケティングプランが一気通貫になっていない例が見られます。サイトのユーザーイメージと紹介している内容が一致していなかったり、アクセスが少ないのに内容ばかり改善していたり、ちぐはぐになってしまうのです。そうならないよう、オフラインのマーケティング以上に、自社の目的と戦略、マーケティングプランを明確にし、ドキュメント化して共有する必要があります。
これらの視点を持って、ウェブサイトで誰に何を見せてどんな効果につなげたいのか、オフラインの流れも含めて大枠を検討しましょう。
ある程度戦略のイメージが固まったら、ウェブチームを結成しましょう。ウェブチームには経営者、部門長、現場担当者など、広く参加してもらうべきです。ウェブは扱いようによっては単なる広告にもなりますし、新規事業にもなりえます。動かせる枠組みの規模によってウェブサイトから生まれる価値は大きく変わるのです。出来るだけ大きな枠組みから出発するべきです。
担当者はまずは自分なりに調査した競合他社のウェブサイトの事例や一般的なウェブサイトの活用について紹介し、いくつかのウェブサイトの活用案を提示しましょう。この時点ではやるやらないでは無く、どのような可能性があるのか、具体的に提示することで、どの程度のコスト、スケジュール、体制で取り組むべきかのイメージを共有します。
社内の意見の取りまとめは非常に困難な作業です。企業には“変わりたくない”という慣性が働き、新しい取り組みに対しては拒否反応が出るのが普通です。特に、それが全社に関わるものとなると、ありとあらゆる部門からそれぞれの部分最適な意見が飛び出し、まとめ上げるのは難しいでしょう。
ただし、これはウェブの活用に限った話ではありません。新い事業への取り組みや、組織の改編に当たっては同じような反応がおこるものです。逆に言えば、ウェブサイトの制作を通して、会社組織や部門ごとの利害関係、部分最適と全体最適のずれなどを再発見することができます。
この作業を出来るだけ深堀することで、ウェブサイト自体も良いものになりますし、また副産物としての組織の情報共有、全体最適の視点から部門目的、目標の見直しが図れる場合があります。そのためにも、じっくりと時間をかけてウェブ活用に関して広くヒアリング、意見交換を行いましょう。
ある程度社内の合意が得られ、「ウェブサイトを作ろう!」となったらパートナーとなるウェブコンサルタントを探します。
先ほどアクセス対策についてお話したように、ウェブサイトを制作すると言ってもサイトのデザインや内容だけを制作するのではなく、ウェブサイトの効果的な活用まで含めて考える必要があります。たとえば、メーカーであればECで直販を行うべきか、商品情報を提供して店舗販売を支援するべきか、ユーザーの声を集めて商品開発に活用すべきか、などです。それぞれの場合でサイト利用者も異なりますし、ユーザー獲得のためのアクセス対策も、サイトの中身も大きく異なります。また、それぞれの場合にどの程度のユーザーを誘導出来て、その場合のコスト、期間、効果がどの程度なのか、このあたりは多くのウェブサイトの構築、運用に携わった経験が無いと判断ができません。
そんなときに重宝するのがウェブコンサルタントです。広い知識と経験でウェブの活用に関してアドバイスをしてくれます。しかし、ウェブコンサルタントと言っても詳しく見ると、それぞれの業務内容には幅があります。典型的なウェブコンサルティング会社の強みと役割を見てみましょう。
インターネットを活用した事業戦略やウェブマーケティング全体の提案を行います。サイト制作の周辺だけでなく、経営としての枠組みから考えてくれるので、最初に相談するには最適な相手です。また、後述のコンサルタントと異なり、サービスやツールの導入を目的としたコンサルティングでは無いため、中立的な立場で支援してくれるのも特徴です。その支援範囲が広く、コンサルティングの成否が企業のノウハウよりも個人の経験や能力に左右されるため、大手企業の若手よりも中小コンサルティング会社のベテランの方が安心でしょう。
コンサルティングそのものが商品ですから、サービスやツールの導入を合わせて行う専門コンサルタントと比較して、コンサルティング単体の費用は割高に見えます。ウェブサイトを事業の核として本格的に活用する場合に活躍します。
SEOやリスティング広告の手法を得意とし、効果的なアクセス対策を実現するためのサイト設計などを提案します。アクセス対策サービス会社から進化した会社が多く、ウェブマーケティング、簡単に言えば、ウェブサイトの外部の改善についてノウハウを持っています。サイト設計についてはアクセス対策の効果を高めるためのアドバイスが中心で、ユーザービリティやコンテンツ企画については苦手とする会社が多いようです。
多くの場合はアクセス対策の実装の受託も合わせたサービスとなります。会社ごとに活用する手法やツールが異なるので、実施するサービスと合わせて検討することになるでしょう。多くの企業で見込み客の誘導と合わせたウェブサイトの制作が戦略の中心になっていることから、活躍シーンが増えています。
サイトユーザーの定義からそのユーザーにとって使いやすいサイトの構造やデザインを提案します。コンサルティング会社と言うよりは、制作会社が制作の前段階として提供している場合が多いようです。
サイトの戦略が明確であるか、既存のサイトが既に成功していて、サイトの使いやすさや見栄えのリニューアルを目的とする場合などに活躍します。しかし、アクセス対策については深く関与しない場合が多く、その点に不安がある場合は別のコンサルティング会社を選択する方が良いでしょう。サイト制作の付加サービスとして提供されることが多いため、制作会社としての適、不適と合わせて検討するのが良いでしょう。
また、得意とする業界や規模などもありますので、自社の状況に応じて適切と思われるウェブコンサルタントに相談してみましょう。何社かに話を聞いて、最適と思われるコンサルタントと一緒にサイト活用の大枠を決定しましょう。
コンサルタントは必須というわけではありませんが、社内の担当者や一般的なサイト制作会社だけではウェブサイト活用の戦略を明確に描くことは難しく、結果、なんとなく要件を決めて、なんとなく制作し、効果が出ない、という例が多いようです。
仮説なくして検証なし、ですから、まずは一緒に活用のイメージを共有できるパートナーが必要でしょう。
それが制作会社のスタッフでも構いませんが、サイト活用のイメージを明確にすることだけは忘れないでください。
ウェブコンサルティング会社の種類と業務範囲
ウェブサイト活用の大枠のイメージが見えてきたら、具体的なプランに落とし込んでゆきます。制作会社にウェブサイト制作を依頼する前に以下のことを決めておきましょう。
制作会社が何を実現すれば良いのかを自主的に考えられるように、サイトのゴールを明確にしておきましょう。とにかく会社案内サイトを作って欲しい、ではどこに予算をかけるべきかが分からず、出来たサイトに対しての評価も別れてしまいます。
サイトの目的から、誰にサイトを見てもらいたいかを明確にします。顧客なのか、見込み客なのか、取引先なのか、その他広くブランディングのためのサイトなのか、などです。必ずしもそのうちの一つを選べ、ということでは無く、具体的なイメージや比率、重要性が分かることで、TOPページのイメージが変わったり、ページの比率が変わったりします。
サイトユーザーをどのようにして誘導するかのイメージを伝えます。たとえば、「雑誌や他のメディアから誘導するので、サイトは受け皿としてあれば良い」、「SEOで○○に興味のある人を誘導して欲しい」などです。専門分野なので、予算と可否、具体的なボリュームなどは後々検討する必要があります。また、SEOのような手法を使う場合は制作会社以外にも専門のSEO会社にもチームに加わってもらう可能性があります。
サイトでどのような内容を見せたいかを決めます。制作段階でより詳細に洗い出しますが、新規に作成するコンテンツが多い場合などは予算やスケジュールが大幅に変わることもあります。
出来あがったサイトをどのようにして維持、運用していくか、また更新が必要な場合にだれが行うのか、などを決めます。
運用体制は戦略によって大きく異なりますが、通常は毎月1回程度のウェブ会議を実施し、アクセスログ解析からのサイトの状況の共有、更新プランの決定、更新作業を行ってゆきます。
更新は制作会社に依頼するのが一般的ですが、新着情報の更新程度であれば、最初から更新ツールを導入して自社で更新することも検討できます。
上記の内容を踏まえて、費用対効果としてふさわしい予算を決定します。また、理想的なウェブサイトを実現するには希望する予算に収まらない場合もあり、その場合に何をそぎ落とすことができるのか、優先順位を明確にしておくと、いざというときに検討しやすいでしょう。
また、スケジュールも検討しておくべきですが、現実的にはウェブサイト制作のスケジュールは制作会社の空き状況やコンテンツ制作期間などに大きく依存しますので、事前の検討は難しいところです。締切だけを決めて強引に進めた場合、あとで大幅な修正が必要になり、コストも時間も浪費する場合が多いので、スケジュールは制作会社と調整しながら慎重に決定しましょう。
以上の準備が出来たら、制作会社の検討です。
次回は制作会社の種類と特徴、自分に合った制作会社の選び方、予算の考え方について紹介します。
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